デントリペア(正式名称:Paintless dent repair)の修理方法には、裏から専用工具で押してなおす「プッシュ」と接着剤と専用工具を使ってヘコミを引っ張り出す「プーリング」の2通りがあります。
簡単に言うとプーリングは、ヘコミにタブと呼ばれるものを接着してスライドハンマー、ハンドリフターなどを使って、パネルを引き出す作業です。

次の写真の青い半透明のものがタブです。そして、タブには熱で溶かすタイプの接着剤をつけて、ヘコミ部分に貼り付けます。
施工事例へのリンク:レクサスNX200tの屋根の修理事例

小さなタブ
ヘコミの右側においている半透明の青色のものがタブ

タブには様々な形状(色も様々)のものがあり、線状形のヘコミに使うタブ、大きなヘコミ用のタブ、曲がった形状に対応できるタブなど様々なものがあり、ヘコミの形状にあわせて使い分けます。

いろいろな形状のタブ
様々な形状のタブをヘコミの形状に合わせて使い分けます

次の写真は、タブに専用の接着剤(ホットメルトグルー)をつけて、ヘコミに取り付けてから、”ハンドリフター”をセットしたところです。黒いハンドル部分を握るとタブの部分が持ち上がります。
ゆっくり力を加えていくことができ、また、力加減を調整することができるので、ヘコミをどこまで引き上げるのかをある程度調整できます。

ハンドリフター
ハンドリフターでの作業
グルーガン
グルーガン 熱でグルースティックを溶かしタブに塗るためのものです
グルースティック
グルースティック(熱で溶かして使用する接着剤)もヘコミや気温に合わせて使い分けます。

さて、これでタブを引っ張るとヘコミが出てくるのですが、出過ぎた部分はポンチとハンマー(木槌)を使って叩いて高さを調整し、まだ、出ていない部分は、さらに直径が小さいタブを接着して引っ張ります。これを繰り返して、完全に元の形状に戻していきます

では、もっと大きなヘコミや複雑な形状のヘコミは・・・

dented B pillar
曲がった形状のヘコミ

たとえば、上の写真のように複雑な形状のヘコミの場合は、ヘコミの一部ずつなおしていくこともありますし、下のように特別なタブ(形状を変えられる)を使用する場合もあります。

特殊な形状にあわせることができるタブ
タブはヘコミの形にあわせて選びます

このタブをスライドハンマーで「ガン、ガン」と引っ張って、ヘコミをある程度出したあと、出過ぎた部分は、もとの高さになるように表面を叩き、まだ凹んでいる部分は、再度ヘコミの大きさ、形状にあったタブを選び直して接着して引き出し・・・を繰り返し、完全にもとの形になるまで作業します。

スライディングハンマー
スライディングハンマー

さらに大きなヘコミの修理には

大きなヘコミや長いヘコミに対応できるタブを使用します。

大きなヘコミ修理用タブ(一例)

また、大きなタブや長いタブを引っ張るために、スライディングハンマー以外に、次の写真のような「タブをテコの力で引き上げるツール K-Bar」や、「大きなタブをゆっくり引き上げることができるツール K-beam 」をつかうこともあります。大きなタブを引き上げながら、周辺の高くなっている部分をハンマーで叩くこともできる便利ツールです。ヘコミの周辺の形状が盛り上がっている場合は、特に有効です。

K-Beam と K-Bar
K-Bar(奥)と mini K-Beam(手前)
mini K-Beam使用例
mini K-Beamと長いタブの使用例

プーリングはどこのデント屋さんでもやっているの?

プーリングは、プッシュと比べて「より高度なテクニック」と「根気と必ず綺麗になおすという強い気持ち」が必要な作業だと思います。
「プーリングは、やっていない」というデント屋さんもいます。また、お客様からの話ですが「広い面積を修理すると凹凸がのこる」と説明しているデント屋さんもいるとのことです。一見、簡単なようで実は難しい技術であり、広い面積を綺麗にもとの形に戻すには、相当の時間もかかります。
当店は、もちろん、プーリングの仕上がりにもこだわっています。お客様に、「綺麗に元どおりになおった」、「映り込んだ蛍光灯がまっすぐで、映り込んだ景色もゆらゆらしない」とお客様に言っていただけるように最善を尽くし仕上げております。
でも、なぜ、プッシュだけでなく、プーリングによる修理技術が必要なのか?それには、次のような理由とメリットがあるからです。

No.プーリングのメリット
1大きなヘコミを強い力により、短時間で引き出すことができる
2裏に鉄板があったり、袋構造になっていて、裏からツールで押すことができない場所も修理できる
※例:ルーフサイドピラー、Aピラー、Bピラー、ドアパネルの上のほう、ボンネットの一部など
3内張り(インテリア)の分解をする作業時間が短縮できるから作業価格を抑えられる。
※例:屋根(天井分解は時間がかかる)、リアクォーターパネルなど
表:プーリングのメリット

特に、2のケースに対応するには、プーリング以外の修理手段がない場合がほとんどなので、プーリング技術は、現在のペイントレス・デントリペアには必須の技術です。

一方、プーリングには下記のような弱点があります。特に、塗装が剥げるリスクは、どのような車でもゼロではありません。剥げても弁償できない点を作業前に、予めご了承いただく必要がございます。

No.プーリングの弱点
1表面に金属部分が見えるようなキズがある場合、プーリングにより、キズ周辺の塗装が100%の確率で剥げるので、作業不可能。
2年数が経過した車ほど、プーリング作業で塗装が剥げるリスクが高くなる。新車でも剥げることがある(アルミ製パネルの場合は剥げる確率が高いようです)。剥げた場合、代金はいただきませんが、弁償もできないことを事前にご了解いただきます。
3ヘコミの状態によってはコーティングを残したまま作業できることもありますが、お約束はできません。基本的には、表面にある薄い傷を磨いてから作業するので、ヘコミ周辺部分のコーティング効果はなくなります。
4板金塗装屋さんが塗装したパネルのヘコミをプーリングで引っ張ると、高い確率で塗装が剥がれます。板金塗装されていると判断した場合、プーリングはお断りしますが、見分けがつかない場合もあります。
同じく、板金塗装したパネル(例:前ドア)の周辺のパネル(例:後ろドア)にも、ぼかしのための塗装がされていることがあり、ぼかし塗装されていた場合は、プーリングした部分の塗装(特にクリア層)が剥がれます。
表:プーリングの弱点

最後に

時折、ルーフサイドピラーやリアクォーターパネルはペイントレスデントリペアでは修理できないと思っておられるお客様がいらっしゃいますが、”プーリング”を使用すれば「できない」と思われている部分でも修理可能なケースがとてもたくさんあります。
他店で断られたものや、他店で提案された修理方法が納得できない場合も、是非ご相談ください。もちろん、ご相談やお見積は無料です。ご相談の上、お客様にとってベストと思われる方法をご提案させていただきます。

ペイントレス・デントリペアは、「その日のうちに作業が完了」しますし、今回程度のサイズのヘコミの場合、「鈑金塗装よりお得な金額」「経年劣化の心配がない」、もともとの塗装面のままですから「修理箇所だけ周辺と感じが違うということがない」などメリットがいっぱいあるので大変お奨めです。 また、直せなかった場合は、代金はいただきません。
傷のない凹みの修理なら、まず、デントリペアをご検討いただき、デントリペアがだめなら鈑金塗装という順番で検討されるのがおすすめです。

お知らせ 記事一覧